Them magazine

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MUSIC
Feb 11, 2020
By THEM MAGAZINE

interview with the hatch「THE JUSTICE」

Photography_Mai Kimura.
Interview_Noriko Wada.

 

interview with the hatch「THE JUSTICE」

2月1日、記録的な暖冬が続く札幌、雨まじりの時刻がわからないような白んだ空の日に開催された、ポストハードコア・オルタナティブバンドthe hatch主催のイベント「THE JUSTICE」。札幌を拠点にしながら東京のシーンにも名を広めている彼らが、札幌を中心に38組のミュージシャンに声をかけ、西沢水産ビルという建物全体で大規模イベントを行った。
札幌駅から北へ2駅、人気のない道路の一角に続々と人が集い、13時から0時を過ぎるまで(打ち上げを入れると朝の6時まで)途切れることなく人と音が交差していた。地下1階の「161倉庫」と「秘密基地」、2階の「zippy hall」がライブ・DJフロアとなり、地下の「胡蝶」という座敷がある部屋が飲食スペースとして使われ、来場した各々が好きな時間に好きな音や空間を“選択”して時を過ごした。どのフロアもドアを開けると中に入れないくらいの満員御礼。フロアに滴る汗、熱気、群像、爆音、そういったものが“意思”を忍ばせながらそこに混在していた。
その“意思”とはなんだったのか? 主催であるthe hatchのボーカル・山田みどり氏に、本企画の経緯や「THE JUSTICE(正義)」と名付けられた意図について聞いた。

––ここ数年は主に東京を軸に活動してきたと思うのですが、改めて地元である札幌でイベントを開催しようと思った経緯を教えてください。

 

 インターネットが普及したこともあり、音楽活動は土地に囚われることなくフェアにできると思ってましたが、僕らの場合、曲がたくさんできるのはなぜか冬でした。ネットを通して入る情報じゃなく、嫌になるほど過ごして肌に沁みた真冬の感覚に感化されていたんですね。そして、それはこの土地で育った人にしかない財産だと今更気づいたんです。今企画の開催には、その無意識に記憶している土着的な原体験が忘れ去られないようにという思いがありました。他には、生きる上で必要のないものは、何かしらの意思を持ってそこに存在していると思っていて。自身に帰属する何かをつくるときに、自分の意思を大切にするのは当たり前なことだと気付かせてくれたのは、自分がいた実験的なシーンでした。だからこそこれからの世代の人にも、表現のためにあって然るべき“意思”を大切にしていってもらいたくて。だから新しい考えを提示したり、自分の才能や努力に値する評価や賛同を要求するためじゃなくて、本来そこにあるものを伝えるために、この企画を始めようと思いました。

 

––札幌の真冬の経験とは具体的にどんなものでしょうか?

 

 北海道ってめちゃくちゃ寒いんで、外に出なくなるんですよね。なので、他人と一緒にいない分、自分と向き合う時間が増えたり。冬の夜に散歩することが多いんですけど、積もった雪は音を吸うので、異様に静まり返って切迫していたりして。札幌はオレンジ色の電灯が多いのですが、白熱灯の光と重なると雪が色んな照らされ方をして、オレンジと白の光が錯覚で赤にも青にも見えたりします。そういった体験が自分の表現の色になっていると思います。

––THE JUSTICE」というタイトルについて、どのような思いで名付けたのでしょうか?

 

 ただただ自分の置かれている状況や与えられた時間に対して、自分自身がどう感じて、自分であるために何をすべきかをみんなに考えてほしいと思うだけです。そのように考えることは、その人の視野を広げていってくれると信じてます。未来や今や過去に対して自分自身の答えを出し続けるってことが、タイトルへの揺るぎない答えです。

 

––出演者に対してもその思いがあったのでしょうか?

 

 多くの若い子達は、あるタイミングで、バンドで生活が成り立つかどうか悩むことと思います。素直にやりたいことや大衆に受け入れられる見込みのあるものがあって、どこまで自分に嘘をつくか……そういった葛藤があると思いますが、表現する以上は、第一にそれが自分である意味というのを捨ててほしくないなと。いま音楽をやってる人たちの未来に繋がってほしいという思いと、札幌で音楽を続けていく中で札幌である意味を忘れて欲しくないなという気持ちがありました。札幌には、誘いきれないほど素晴らしいアーティストがいるので、今後も続けていこうと思ってます。

 

––出演者からは、the hatchの友だちの多さや関わりについての言葉が多かったように思います。

 

 札幌のあらゆるシーンに尊敬している人がたくさんいますが、お互い認識があっても意外と関わりがなかったりします。それはべつに線を引きたいわけじゃなくて、踏み出すきっかけを自分でつくるのが難しいだけ。the hatchは昔からどのシーンや界隈にも属していませんが、これは孤立を望んでるわけじゃなくて、音楽にフェアに触れていたいからで。それが原因で変に勘違いされることもあるけど、the hatchの強さになっていると思ってます。どこに属しているかが大切なのではなく、自分の好きな音楽をやってる人が大切なだけなんです。

––the hatchのライブを見て、今までよりもある種の使命感が芽生えているように感じました。

 

 芽生えましたね。自分がライブや表現をする上で、以前までは共有している空間の空気を自分が掌握するようなイメージでしたが、昨年くらいからは自分たちの提案に対する相手の解釈や意味を、受け取り側を信じて委ねる勇気が持てるようになて、その人に未来に繋がる何かになればいいなと。例えば今は、THE JUSTICEに対する意味をみんなが持ってくれたらいいなという使命感があります。

 

––そう思うきっかけなどがあったのですか?

 

 この1〜2年で少なからず以前よりも札幌での影響力が大きくなったと感じますが、自分や他者の音楽に対して僕からの評価で価値を決めるようとする質問を多くされるようになったことに違和感を感じて。他人の評価より、その人にとって大切な意味を成してるならいいじゃんって思うんです。他者に観測されて作品が成立する部分がある以上、誰もが人の価値観を気にするとは思うんですけど、そこで生まれた評価が到達点になってる人が多い気がして、そういうことじゃないってことを伝えたいと強く思ったんです。限られた時間の中でその人にとっての正しい判断をしてほしい。ここまで自分の意思を認識して発信できる生き物は人間だけで、それって僕からすると新しい生命が生まれるくらい尊いことで、だから生命の存続だけじゃなくて、自分自身を存続、維持するために何かができるのは、他の生物の枠を超えた進化だなって。

 

––それってとても文化的なことですよね。

 

 本当に文化的だと思います。そこにこそ音楽の意味があって、そもそも個人を意識することで芸術って生まれたと思うんですよね。自分がどこにいて何に含まれるのかを価値にする人が多い気がするんですが、本来の音楽や文化、芸術は個人が個人であるために存在してるんだと思います。the hatchの中でもよく旅について話すんですが、遠くに行くことじゃなくて目の前のペットボトル1本にどれだけ見方や角度で広がりや奥行きを自分で見られるかが旅だと思います。そうやってみんなの日頃の視野や見る世界が変わっていけばいいなと思いますね。

––今後も「THE JUSTICE」は続けていく予定でしょうか?

 

そうですね。あまり大ごとには考えてなくて、年内にもう一回やりたいなくらいですけど。始まる前から次の出演者のリストもつくってますし。イベントを終えて、めでたしめでたしってのいうのはなくて、あくまで続いていくためのきっかけだと思っています。あの日が大事ではなく、もちろん良かったと思ってますが、これからが大事になっていけばいいという気持ちにシフトしてますね。提案した立場なので、次を第一に考えていかないといけないなと思ってます。

 

––the hatchとしての今後の展開はどうでしょう?

 

 年内にアナログEPとアルバムをつくる予定です。アルバムは現在制作中ですが、アルバムにまとめるにはまだ試したいことが多すぎて錯綜しています。毎回苦しいくらいギリギリな曲をつくってるんですが、そのギリギリや辛さを楽しめるメンバーなので、そこがすごく好きですね。そのギリギリを超えたthe hatchは僕もまだ見えてないですけど(笑)

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