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MOVIE
Jun 26, 2020
By THEM MAGAZINE

Go See a Movie : 映画館へ行こう!『はちどり』

キム・ボラ監督『はちどり』

カンヌのパルム・ドール、そしてグラミー賞までを掻っさらい、今年映画界の話題の的となったポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』。
そんな傑作を抑え、韓国・青龍映画賞にて最優秀脚本賞を獲得した作品がある。
それが、キム・ボラ監督による『はちどり』だ。

 

物語の舞台は、1988年にオリンピック開催を成功させ、急速な経済発展の最中にあった1994年の韓国・ソウル。
一時的な社会的成功が加速させる上向きすぎる学歴主義への幻想により、多くの家庭が子供に過度な勉学を強いる(これが両親自身の反面教師としての親御心に由来するのだから皮肉だ)、とてもギスギスした世界。煙草はおろか、カラオケや恋愛ですらも「不良」のやることとされる、生きづらい時代だ。
そんな社会風潮の中、集合団地に住み中学校に通う主人公ウニ。クラスでうまく馴染めず無気力に過ごす日々の中で、突如として起こる出来事、友人や彼氏との人間関係、その一つひとつがウニの心を揺り動かしていく。

韓国で起きた象徴的な出来事を重要なファクターとして取り入れながら、1年以内の狭い時間軸、とても限定されたウニの行動範囲内を描いたこの映画に派手さはない。
だが『はちどり』というタイトルが示す、成長過程にあるか弱い少女の物語は、鑑賞者それぞれの思い出と結びついて後を引く。
それは、個人や家族、国家を巻き込んだ緻密な構成による丁寧なストーリーテリングが、共感を呼びおこす普遍性を生んでいるからだ。
酸いも甘いも噛み締めた巨匠映画のような味わいだが、キム・ボラ監督はこれが長編デビュー作だという。信じられない。

はちどり

2018年/韓国=アメリカ/韓国語 /138分
ユーロスペースほか全国上映中
animoproduce.co.jp/hachidori

Kim Bora

キム・ボラ 1981年生まれ。東国大学映画映像学科を卒業後、コロンビア大学院で映画を学ぶ。2011年に監督した短編『リコーダーのテスト』が、アメリカ監督協会による最優秀学生作品賞をはじめ、各国の映画祭で映画賞を受賞し注目を集める。本作『はちどり』は、『リコーダーのテスト』で9歳だった主人公のウニのその後の物語である。

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