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MOVIE
May 01, 2021
By THEM MAGAZINE

Go See a Movie : 映画館へ行こう! ハーモニー・コリン『ビーチ・バム まじめに不真面目』

ムーンドッグは、ただのめでたい男か?

 

2012年の『スプリング・ブレイカーズ』以来、待望の一作となったハーモニー・コリン監督の『ビーチ・バム まじめに不真面目』。「心地よく揺れるヨットのような作品」と監督が語る、奇才ハーモニー・コリン節全開のぶっ飛んだサマームービーに仕上がった。

主人公の詩人ムーンドッグは、過去に一度だけ出版した作品で天才の名を手にし、酒、セックス、ドラッグにまみれた、とんでもなく型破りな暮らしを続けていた。パーティからパーティへとはしごし、朝から晩までただひたすら放浪し続ける様は、映画タイトルである「ビーチ・バム(一日中海辺で遊ぶ者の意)」そのものだ。しかしある事件によって、新しい詩集を出版せねばホームレスになるという苦境に追いやられてしまう。

 

まるでUSヒップホップのMVのごとく浮世離れした、底抜けに明るいコメディムードが通底するが、ムーンドッグの快楽に対する実直さと合間に挿入されるポエティックなセリフ--夢想的でありながら、どこか人生の核心をついているようでもある--によって、哀愁が煙のように漂う。ムーンドッグの役作りから参画したマシュー・マコノヒーの怪演が、奇天烈な人物像に深みを与えているのだ。撮影監督を務めたのは、ギャスパー・ノエ作品も手がけるブノワ・デビエ。マイアミの陽光によるオレンジの色彩、大麻やアルコールの匂いを錯覚するような臨場感、そして人々のギラついた陶酔と熱狂が生々しく映し出される。人生は楽しいことだけではない。谷は絶対にやってくる。苦難にめげず、明るいほうを信じて顔を上げ続けるムーンドッグに感銘を受ける。能天気と後ろ指をさされたとしても、それが彼の信じる詩的な生き様なのだ。

 

 

ビーチ・バム まじめに不真面目

2019年/アメリカ/英語/95分
TERM 2021年4月30日〜
SCREENキノシネマ横浜みなとみらい他全国順次ロードショー
URL movie.kinocinema.jp/works/beachbum

HARMONY KORINE

ハーモニー・コリン 1973年、アメリカ・カリフォルニア州生まれ。5歳のとき家族でアメリカ東海岸に移り住み、幼少期はテネシー州ナッシュビルとニューヨークで過ごす。19歳でラリー・クラーク監督『KIDS/キッズ』(1995)の脚本を書き、一躍有名に。1997年に初監督作品『ガンモ』公開。その他代表作に『ミスター・ロンリー』(2007)『スプリング・ブレイカーズ』(2012)がある。

 

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Edit_Ko Ueoka.

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