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ART
Apr 23, 2021
By THEM MAGAZINE

度重なる発見の先に

度重なる発見の先に

上野の「東京都美術館」で開催される、彫刻家イサム・ノグチの大規模回顧展のタイトル「発見の道」は、作家によって1983-84年に制作された作品名から取られている。

その英題は「Ways of Discovery」と複数形になっており、発見の“道”はひとつではないと明示されている。これこそ、ノグチが晩年に行き着いた思想であった。日本人と米国人の間に生まれたノグチは、人生の折々に立ちはだかる自身のアイデンティティの葛藤に苦しみながらも、独自の彫刻哲学を打ち立て“自分”を発見する。香川県の牟礼町で産出される花崗岩を使用したことがきっかけで、69年、牟礼町にアトリエを構えるようになると作風に変化が訪れる。「石の声を聞くことで」生み出されるようになった作品は、それまでの西洋的ともいえる合理的で完璧な造形とは異なり、手が加えられつつも石本来の要素が多分に残っている。自然の霊性や荘厳を宿しながらも威圧的でなく、自然、そして世界と調和した“余地ある”作風は、日本文化の精神からの発見であっただろう。

 

《ヴォイド》 1971年(鋳造1980年)、和歌山県立近代美術館蔵、撮影:齋藤さだむ ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

多様な作品によってノグチのキャリアが網羅される今展では、晩年に至るまでのノグチの「発見の道」を辿ることでその神髄に迫る。手がけられた舞台美術やプロダクトデザインにもスポットライトがあたり、代表作である「あかり」を150灯も用いたインスタレーションや遊具彫刻といった体験型展示も見どころだ。また、ノグチ芸術の到達点であった牟礼町に保管されている石彫を、まとまって東京で見られるまたとない機会でもある。空間と呼応しながら静かに佇む作品への感じ方も、決してひとつではないだろう。ノグチの発見は、さまざまな道を辿って鑑賞者へと引き継がれていく。

 

 

イサム・ノグチ 発見の道

TERM 4月24日~8月29日
PLACE 東京都美術館 企画展示室
ADDRESS 東京都台東区上野公園8-36
OPENING HOURS 9:30-17:30
URL isamunoguchi.exhibit.jp

ISAMU NOGUCHI

イサム・ノグチ 1904年、米国・ロサンゼルス生まれ。詩人の野口米次郎と米国人の作家で教師のレオニー・ギルモアの間に生まれる。68年、ホイットニー美術館で回顧展を開催。85年、ニューヨークにイサム・ノグチ庭園美術館を開館。1987年、米国国民芸術勲章受勲。1988年、勲三等瑞宝章受章。北海道札幌市のモエレ沼公園に着手するも、心不全により84歳で逝去。

Top Photo_ 「あかり」インスタレーション 撮影:齋藤さだむ

Edit_KO UEOKA.

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