Nov 14, 2025
By NONOKA FUJIWARA
ソフビ作家・岡田悠助が形にする、子どものころのヒーローへの憧れ
2025年4月発売のメンズビューティ特集号。その撮影現場で、ひとりのメイクアシスタントが印象に残っていた。モデルの腕にエアブラシで金色の模様を描きながら、「メイクは本業ではないんです」と控えめに笑っていた彼の名は、造形アーティストでありソフビ作家の岡田悠助。12月に個展を開催すると聞き、改めて会いに行った。
美容師から特殊メイクアップ・造形アーティスト、そしてソフビ作家へ
兵庫県出身の岡田は、美容師として働きながら特殊メイクと造形を独学で学び、2014年に、TVのバラエティ番組やミュージックビデオ、映画などで活躍する特殊メイク・造形工房「自由廊」に入社。さまざまな映像作品で特殊メイクや造形物の制作に携わってきた。
幼いころに観た『スター・ウォーズ』シリーズや『メン・イン・ブラック』(1997年)に心を射抜かれ、映画の世界に携わることを夢見てきた岡田。中学時代に特殊メイクへの興味が芽生え、卒業後は親の後押しでハリウッドを目指す。ところが9.11の大事件をきっかけにハリウッドを断念。代わりにカナダのアート系の高校に留学し、20歳で帰国。その後は志半ばで実家の美容室を手伝いながらも、「特殊メイクを仕事にしたい」という思いを諦めなかった。そして26歳で上京し、所持金10万円のまま「自由廊」の門を叩いた。
「最初は掃除と雑用ばかりでした。でも、憧れていたものが実際に生まれていく現場では、見て学ぶことがたくさんあった。終業後でもみんなで残って練習し、その結果、できることの幅が広がっていくのも楽しかった。何より、作ることについて話せる人がいるのが嬉しかったです」
徐々に技術を磨きながら、俳優やタレントの特殊メイクに使うシリコンパーツの制作をはじめ、テレビ番組や映画、CMやミュージックビデオに登場する造形物の制作を手がけるようになった。そして自身が強く尊敬する芸術家・岡本太郎の胸像『Taro』(2019年)を自主制作し、個展も開催。「僕は彫刻が得意だったので、現場でメイクするよりも工房で造形物を作ることが多かったです」と岡田は振り返る。
そして約7〜8年の経験を経て、次第に“決められたデザインを正確に再現すること”に物足りなさを感じるようになった。そんな折に出会ったのが、ソフビの原型制作。「これなら、自分の世界を思い切り表現できる」と確信し、自由廊に勤めながら自主制作として「ゴーヤ怪獣」を作り始める。作品の知名度が広がるにつれ制作は軌道に乗り、2024年に独立を決意した。
ソフビというルールの中で遊ぶ
ソフビとは、ポリ塩化ビニール(PVC)という柔らかな素材で作られた人形のこと。今も昔も子ども向け玩具の代名詞だが、最近では国内外でアートとして評価され、ヴィンテージソフビを蒐集するコレクターや、インディーズの作家も次々に誕生している。岡田もその流れの中で、自身の世界を築いてきた作家のひとりだ。
「『ゴーヤ怪獣』は、『ある有名怪獣の皮膚は、ゴーヤを参考にしている』という話から着想を得て作ったんです」。当初は同僚たちと3人で制作を始めたが、2人が退社してからも、岡田はひとりで作り続けた。2022年のデザインフェスタで初めて販売され、以降2度カプセルトイ化。派生デザインや赤ちゃん版の「ベビーゴーヤ怪獣」などキャラクター数が増えるとともに、じわじわとファンを増やし続けている。
壊れにくく、世代問わず楽しめるソフビ。岡田が魅力に感じているのはどのような部分なのか聞くと、「かわいいところです」と、まるで我が子について話すかのように笑った。「ツルッとした質感や特有の膨らみ方はたまりません。金型から外す工程や塗装の加減で、同じ作品でも全部ちょっとずつ違う。それが1点もののようにも感じられるんです。しかも、金型には構造的に作れない形がたくさんあるので、その制約の中でどう遊ぶか、特殊メイクや造形の経験を活かしながら考えることも楽しいです」
“ヒーローになりたかった”あの頃の気持ちをもう一度
岡田は自身の作品を通して、子どものころに抱いたヒーローへの憧れを形にしている。新作「バクハツ少年コタロウ」はその象徴的な存在だ。中学時代に強い影響を受けた岡本太郎へのリスペクトを込め、「誰の中にもある、『正義感のある子ども時代の自分』をもう一度思い出してほしい」という願いを託した。
「悲しむ人に手を差し伸べれば、その人にとってのヒーローになれる。優しさと勇気を出せる人が少しでも増えれば、世界はきっと救われる。僕の作品を見ることが、ヒーローになりたかった幼いころの自分を思い出し、本来持っていた勇気や、自分の優しい部分を見つめ直してくれるきっかけになれば嬉しいです」
責任ある大人になる前は、ヒーローになりたい子どもだった。困っている人に手を差し伸べ、悪と戦い、世界を救えるとさえ思っていた。その気持ちをノスタルジックなものとして消化するのではなく、再解釈として思い出してほしい。「コタロウのような、子ども時代の正義感に溢れていた“きみ”は、いつだってきみの中にいる」。岡田はそんな想いを込めながら、制作を続けている。
12月12日から28日まで、三越前駅のアートギャラリー「27 GALLERY TOKYO」で開催される個展に足を運び、岡田が見つめる怪獣やヒーローの輪郭を、あなたの視点で捉えてみてほしい。
《展示会情報》
日程:2025年12月12日(金)〜12月28日(日)
時間:木曜日 15:00〜21:00, 金曜日 17:00〜23:00, 土曜日 13:00〜19:00(休廊は毎週日曜日から水曜日)
会場:27 GALLERY TOKYO
住所:東京都中央区日本橋本町3-2-12 日本橋小楼ビル202
おかだ・ゆうすけ 1987年兵庫県生まれ。高校時代はカナダへ留学し、帰国後に美容師免許を取得。実家の美容室で美容師として働く。2014年に特殊メイク・造形工房「自由廊」へ入社。ゴーヤ怪獣の制作を並行して行い、2024年に独立。フィギュアや漫画などを扱う世界最大級の専門店「まんだらけ」主催の大まん祭における「第8回 創作ソフビ決起集会」(2025年11月24日)にも参加。12月12日からは「27 GALLERY TOKYO」にて個展を開催する。