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ART
Aug 02, 2018
By THEM MAGAZINE

【インタビュー】AMANDA SCHMITT “Defacement” at THE CLUB

 NYのゲストキュレーターによる、「破壊の先にある新しい創造」に着目した企画展

 

昨年オープンした銀座の新たなランドマーク「GINZA SIX」の6F「蔦屋書店」内に「THE CLUB」というコンテンポラリーアートを扱うギャラリーがある。国際的なアーティストをサザビーズ出身のマネージングディレクター、山下有佳子による丁寧なキュレーションのもと紹介することで、欧米とアジアの架け橋となることを掲げている。まだオープンから一年余りだが、ブラジル人アーティストを集めた企画展など、現代アートシーンを的確に見据えたディレクションが話題を呼んできた。第7回目となる今回の企画展では、初のゲストキュレーターとしてNYを拠点に活動するアマンダ・シュミットを招致。アマンダは若手ながらすでに40以上の企画展をキュレーションしてきた実力派で、アート業界の「#MeToo」問題を指摘し、2017年の『TIME Magazine』の「Person of the Year」の一人に選ばれた“時の人”でもある。

 

今回アマンダが選んだキュレーションテーマは「Defacement」。破壊や破損を意味する言葉だが、彼女が着目するのは破壊の先にある新しい創造だ。彼女のキュレーションのもと、アンディ・ウォーホルのシルクスクリーン作品や、ゲルハルト・リヒターのオーバー・ペインテッド・フォトシリーズなど著名作家の作品から、学校を卒業したばかりという新進気鋭のアーティストまで、12人の現代アーティストによる作品が一堂に会した。出身国や年代もバラバラの、多様性に富む見ごたえのある展示となっている。展覧会オープニングに合わせて来日したアマンダに、キュレーターとして展示に込めた狙いやコンセプトの背景について訊いた。

——今回の展示の企画はどのように始まったのでしょうか?

 

「Defacement」というコンセプト自体は、この展覧会の話をもらうずっと前から練り上げていました。ある程度アイデアが固まったので、企画を実現できるギャラリーを探していたのです。去年の夏に行われたアート・バーゼルで「THE CLUB」のマネージングディレクターである山下有佳子と出会い、私が長年作品を見ているアーティストRH Quaytmanについて話していました。その延長で「Defacement」のコンセプトについても話したところ、次に有佳子がNYに来た時に「Defacement」を「THE CLUB」で実施しないかと招待してくれたのです。

 

 

——キュレーションのテーマ「Defacement」について教えて下さい。

 

「Defacement」のコンセプトはいたってシンプル。破壊という行為によって、どのような新しい価値が生み出されるかという点に着目しています。何かを破壊することは、常に悪いことではありません。破壊という行為は、本当の意味でその価値を破壊していないことも多くあります。例えばエジプトのスフィンクスは鼻の部分が破壊されてしまいましたが、それによって一層アイコニックな存在になっていると言えます。

Jacqueline de Jongによる今展のために製作されたアートピース『The Shredded Fake-simile』。

——展示の核となっているアーティストはいますか?

 

今回のコンセプトは、50年代後半に北ヨーロッパを拠点に活動した革命的なアーティスト集団「シチュアシオニスト・インターナショナル」によるアイデアから大きく影響を受けています。「シチュアシオニスト・インターナショナル」は膨らむ資本主義経済による大量消費社会に反抗した前衛グループで、その後に発生するポップ・コンセプチュアルアートの土台にもなっています。今展では、そのメンバーであったJacqueline de Jongのアートピースを会場中央に配置しました。これはもっとも重要なピースと言えますね。「シチュアシオニスト・インターナショナル」は「シチュアシオニスト タイムズ」という独自の雑誌を発行していて、それを編集・発行していたのがJacqueline de Jongなのです。2012年にそのコピーが出版社より再販され、「シチュアシオニスト・インターナショナル」の活動を追っていた人々からは賞賛を集めたのですが、Jacqueline自身は満足していなかった。私がこの展覧会のアイデアを彼女に伝え、作品の出展をお願いしたところ、彼女からはそのコピー版の雑誌をシュレッダーにかける作品を提案されました。彼女は自身が長い間積み重ねてきた成果物を破壊することで、新しい価値を生み出したのです。彼女はすでに高齢でアムステルダムに住んでいるため、私がコンセプトに沿って雑誌をシュレッダーにかけ、ボックスに詰め込みました。このようにアーティストの活動の一部に参加できるのはキュレーターの特権ですね(笑)。

 

 

——「Defacement」というコンセプトのもと、様々なアーティストの作品が展示されていますね。その年代もバラバラとのことですが、最年少作家はどなたなのでしょうか?

 

台湾とアメリカのハーフのアーティスト、Brook Hsuですね。彼女はまだ学校を卒業したばかりです。日本とアメリカのハーフであるモデル、デヴォン青木のイメージを収集している彼女は、セレブリティへの愛と憎しみという相反する感情をイメージの上にドローイングしています。また、雑誌からデヴォン青木のイメージを何枚もコピーすることで、そもそもの貴重性を減らしている。貴重性を台無しにすることで、アイコニックなイメージがどのように変わるのかというのも、「Defacement」におけるコアアイデアの一つです。そして、それに代表されるのはアンディ・ウォーホルですね。Brook Hsuの作品に隣接する壁面に、毛沢東の肖像をカラフルにシルクスクリーンで仕上げた彼の作品『Mao』を展示しています。彼も「シチュアシオニスト・インターナショナル」と同様の哲学を持っているところがあり、大量生産できるペインティングとしてのシルクスクリーン作品はまさしくそうです。またカラフルにすることによって、そのイメージをファッションアイコンのようにも作り変えていますね。

 

 

——参加するアーティストの年齢や著名度などのバランスは考慮したのでしょうか?

 

私がキュレーションを手がける際は、すでにその存在を確立させたアーティストと、頭角を現してきたばかりのアーティストが混在するよう心がけています。「Defacement」のコンセプトとも合致する点ですが、キュレーターの視点として、あるアートの実践が歴史の中でいかに継続してきたかを提示し、そして作品自体の歴史的なコンテクストを再考するためです。私がとてもインスパイアされた言葉があります。それは「新しいカルチャーを創生するには、過去を犠牲にしなければいけない」という言葉。歴史を改めて考えることで、今のカルチャーがどのように出来上がったのかを知らなくてはなりません、また若いアーティストにとって、大御所アーティストと作品が並べられるのは素晴らしいことです。自身の作品がより明快に確立されるし、キュレーターとしては、例えばアンディ・ウォーホルのそばにBrook Hsuの作品が並んでもまったく見劣りしないということを証明することができます。また著名アーティストにとってもメリットがあり、若手の作品と紐づけられることで、自身の作品に新しい文脈がもたらされ新鮮味が生まれるのです。違う角度から改めて作品を見ることで、「なぜこの作品がいいのか」を問いかけることにもなります。

左からRH Quaytmanとゲルハルト・リヒターの写真作品が交互に並ぶ。

——アマンダさんが一番思い入れのあるのはどの作品でしょうか?

 

一番センチメンタルに感じるのは、RH Quaytmanの作品です。私は「シチュアシオニスト タイムズ」のリサーチのため、オリジナルが保管してあるイエール大学の図書館に通っていました。雑誌を読み進め、Jacqueline de Jongについて深く知るようになり、私は「Defacement」のコンセプトについて考え始めたのです。たまたまRH Quaytmanがイエールの近くに住んでいたので、頻繁に彼女の元を訪問するようになりました。ペインターとして知られている彼女ですが、実はポラロイドでかなりの写真を撮っているのです。被写体となるのは親しい友人のみで、写真がペインティングのモチーフになることもあるようです。その写真の山の中に、撮られた後にエモーショナルに彼女の手で引っ掻かれているものがありました。引っ掻くことは、何かを傷つける、バイオレンスな破壊をもたらす行為ですが、彼女は本当に心の通じ合う人の写真にしかやらなかった。彼女にとっては、いたわりの行為なのです。これは真のアーティストだからこそできる表現方法だと思います。私はこの写真を見たとき、絶対に「Defacement」になくてはならない作品だと感じました。まさに「Defacement」のコンセプトである、破壊による再生や再定義、そして何が重要なのかを問いかけることを体現した作品です。

 

 

——そのRH Quaytmanの写真作品2点を交互に挟むような形で、ゲルハルト・リヒターによる3点の写真作品が並列しているのも印象的です。

 

ゲルハルト・リヒターの写真は、写されたロケーションや人々について私自身もよく知りません。彼はアートディーラーにすらその情報を明かさないのですから! しかし、一見なんでもないような写真にも絶対に意味があって、それを想像するのが楽しいですね。RH Quaytmanは21世紀を代表する女性ペインターで、ゲルハルト・リヒターは21世紀を代表する男性ペインター。ですので、このように並列させることは両者にとってふさわしいと思います。そしてどちらのアーティストもペインティングはよく知られていますが、写真作品はそれほどでもない。しかし私は、写真作品にこそ作家のパーソナルな要素を感じています。

 

 

——そうなのですね。アーティストにつき1、2作品の出展となっていますが、数ある選択肢の中からどのように展示する作品を選ぶのでしょうか?

 

こちらから入念に選ぶ時もあれば、偶然に決まることもありますね。私は普段から多くのスタジオやアトリエを回って、アーティストと会話をし、長い時間を共に過ごしています。ですので、どんな隠れた作品があるかも知っています。今回展示しているRH Quaytmanの作品はその一例で、世界初公開となる作品です。作品が売れすぎちゃっているアーティストは、そもそもの選択肢がないこともありますね(笑) Jacqueline de Jongは今展のために作ってもらった作品。今展における展示作品の決定にも、様々なプロセスの違いがありますね。

山下有佳子氏とアマンダ・シュミット氏。壁面には、Nicolas Guagniniの作品の上にBrook Hsuの作品が配置されている。

——キュレーションの際、セールスについては気にしますか? 例えば、広い客層にアプローチするために、目玉として著名なアーティストを参加させるなど…

 

それはセールス・ディレクターでもある有佳子のほうが敏感な話題ですが(笑) しかし確かに、アンディ・ウォーホルのコレクターがギャラリーにやってきた時、他のアーティストを発見できる機会にはなりますね。今まで継続して成功してきたギャラリーは、いつも新しいアーティストを紹介しています。そうでないと、見る側や買う側が退屈してしまうので。今回の展示作品のプライスレンジはかなり広くなっています。

 

 

——「THE CLUB」は大きな商業施設の書店内に位置する、特殊な立地条件のギャラリーと言えますが、そこで展覧会をキュレーションしてみていかがでしたか?

 

書店の中にギャラリーを配置するのは、とても素晴らしいアイデアだと思います。毎日開いていますしね(笑)  NYのギャラリーは週5日のみオープンしている場合が多いので、「行きたい!」と思う日にはクローズしてることも多いのです。私は、アートは限られたマニアのみでなく、全人類に開かれているものだと思います。ミュージアムは入場料もあり、アートについてそこまで知らない人には敷居が高いとも言えますが、ギャラリーは入場料が設けられていないので気軽に訪れられる。さらに「THE CLUB」の持つ“ギャラリーを書店の中に構える”というコンテクストは特別なもので、アートがあるとは知らないでギャラリーに足を踏み入れる人もいるかもしれない。そのような人にとっては予想もしなかった新たな知識が身につくかもしれず、ギャラリーはまるで“生きた本”のようとも言えます。もし展覧会が本にまとめられたら、それこそ書店に並ぶわけですしね。「THE CLUB」での展示によって、コンテンポラリーアートがより広範囲に人々に結びつくことができればいいですね。

 

 

【展示情報】
「Defacement」
TERM ~8月31日 (金) 休廊日8月27日(月)
PLACE THE CLUB (銀座蔦屋書店内)
ADDRESS 東京都中央区銀座6丁目10-1 GINZA SIX 6F
OPENING HOURS 11:00~19:00
TEL 03-3575-5605
URL theclub.tokyo

 

 

Photo_Jun Koike
Edit_Ko Ueoka

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