Sep 04, 2020
By THEM MAGAZINE
Go See a Movie : 映画館へ行こう!『MID90S』
ジョナ・ヒル 監督『ミッドナインティーズ』
2度のオスカーノミネートを経験する実力派俳優のジョナ・ヒルが、初めてメガホンを取ったのが今作『mid90s ミッドナインティーズ』。これぞLA!な開けた空が印象的な、スケートキッズたちによるまばゆい青春ムービーだ。タイトルの通り、時代設定は90年代の半ば。それはジョナ監督が青春を駆け抜けた時期であり、当時は彼もまた劇中に出てくるキッズ同様に、LAでボードを漕いでは生傷をつくっていたのだった。
プロダクションを手がけたA24の手腕もあり、彼自身の経験をトレースするかのように、ありのままの90年代が劇中に蘇る。当時のムードを再現するため、全編を16mmフィルムで撮影し、画角は4:3で固定。物語の重要な拠点であるスケートショップは、ジョナ監督が実際に通ったショップをインスピレーションとしたこだわりのセットだ。スーパーファミコンやカセットテープなど90年代ならではのプロップや、トレント・レズナー&アッティカス・ロスによるスコアに加え、ニルヴァーナやピクシーズなど当時流行った音楽が小気味よく取り入れられた。もちろん当時のスケーターファッションも見逃せず、懐かしのブランドロゴはこの年代を通った人には悶絶モノだろう。
監督の自伝とも言えるほどの熱量が背景に込められているが、それでも本作で一番の輝きを放っているのは役者たちだ。登場人物の多くは実際のスケーターで、13歳の主人公スティーヴィーを演じるサニー・スリッチ以外の俳優は全員初めての長編仕事らしく、その擦れてない初々しさが、ピュアな青春ムードの生成に一役買っている。中でも突出した存在感を見せるのは、レイを演じるナケル・スミスだ。彼は《シュプリーム》や《ファッキンオーサム》クルーのプロスケーターでもある。物語終盤にある、落ち込むスティーヴィーにレイが不器用に諭すシーンは、景気の落ち込んだ90年代の若者の苦悩を描いた今作のハイライトといえるだろう。今作は、ただ過去をノスタルジックに振り返るムービーではない。深みのある構成や余韻の残る編集には、監督自身が演者として業界に長く携わってきた経験、そして無類の映画好きだからこその愛情が宿っている。
Edit_Ko Ueoka.
2018年/アメリカ/英語/85分
TERM 9月4日〜
SCREEN 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
URL transformer.co.jp/m/mid90s
ジョナ・ヒル 俳優として『40歳の童貞男』などのジャド・アパトー作品でキャリアを積み、『マネーボール』(11)でブラッド・ピット演じる主人公の右腕を演じアカデミー賞助演男優賞にノミネート。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)で再び同賞にノミネートされるなど実力派として活躍する。本作が監督デビューであり、脚本も手がけている。