Sep 02, 2020
By THEM MAGAZINE
Letter Exchange 7/8 – Bing & Ruth / 原 摩利彦
音楽家、 原 摩利彦と、デヴィッド・ムーアを中心とした不定形な室内音響アンサンブル・プロジェクト、ビング・アンド・ルースによる、計8通にわたる往復書簡。
最後の往復となる第四通目。テーマは、「この先の暮らし方とは?」。
1.【一通目】 「最近、どんなふうに過ごしていた?」 原 摩利彦→デヴィッド・ムーア
2,【一通目】 「最近、どんなふうに過ごしていた?」デヴィッド・ムーア→ 原 摩利彦
3.【二通目】 「インスピレーションは何から受ける?最近ハマっていることは?」 原 摩利彦→デヴィッド・ムーア
4.【二通目】 「インスピレーションは何から受ける?最近ハマっていることは?」 デヴィッド・ムーア→原 摩利彦
5.【三通目】 「最近、何を聴いている?」原 摩利彦→デヴィッド・ムーア
6.【三通目】 「最近、何を聴いている?」デヴィッド・ムーア→原 摩利彦
7.【四通目】 「この先の暮らし方とは?」原 摩利彦→デヴィッド・ムーア
8.【四通目】 「この先の暮らし方とは?」デヴィッド・ムーア→原 摩利彦
Diary #4 from Marihiko Hara to Bing & Ruth
この先の暮らし方とは?
あなたがクリエイティブな時間を過ごすキャビンの近くに、泉があることはとても示唆的ですね。新たにつくられる音楽を楽しみにしています。
泉を見ると、私は特別な感情を抱きます。自分のスタジオ名を祖父に相談していましたが、結局その話をしないままに亡くなりました。90歳を超えても医師として出勤していたある日、帰宅後調子が悪いと入院して2週間ほどで亡くなりました。祖母が言うには、「泉のような、何か水に関するものがいいんじゃないか」と言っていたそうです。
音楽を教えてくださってありがとうございます。なんと!私も彼女の音楽は大好きです。先日、夜明けに放送されるラジオ番組の選曲リストに「Mother’s Love」を入れたところです。こんなに転がるように動いているピアノなのに、なぜ落ち着くのだろうとずっと思っていましたが、あなたの言っていることで納得しました。
8月に入ってやっと外に出てみました。日曜日の午前6時すぎに妻と子どもと3人で近くの公園に散歩に行ったのです。4カ月ぶりの散歩です。朝の光の色はこんなだったのか、緑がこんなに美しかったのかと感動しました。毎週末に行く度に公園のサウンドスケープも変わってきています。埋め尽くすほどのたくさんのセミの声はなくなり、秋の虫の声がしていました。
これが私からあなたへの最後の手紙になります。おっしゃるとおり、今は精神をととのえること、絶望してしまわないようにすることが最も大事なことです。あなたの文章と写真は、私の家に爽やかな風や波を送ってくれました。
近い将来にどこかで必ずお会いしましょう。そのときはお互いの家族と音楽が一緒でしょうか。そのときが楽しみでなりません。
京都大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科修士課程中退。音風景から立ち上がる質感/静謐を軸に、ポスト・クラシカルから音響的なサウンド・スケープまで、舞台・ファインアート・映画など、さまざまな媒体形式で制作活動を行う。ソロ・アーティストとしてアルバム『Passion』『Landscape in Portrait』、をリリース。坂本龍一とのセッションやダミアン・ジャレ+名和晃平「VESSEL」、野田秀樹「贋作 桜の森の満開の下」の舞台音楽、ANREALAGEパリコレクションのショー音楽などを手がける。アーティスト・コレクティブ「ダムタイプ」に参加。
ビング・アンド・ルースは、NYブルックリンのピアニスト兼コンポーザー、デヴィッド・ムーアを中心とした不定形な室内音響アンサンブル・プロジェクト。ニューヨークのグリニッジ・ビレッジにあるニュー・スクール・フォー・ジャズ&コンテンポラリー・ミュージックで学んだデヴィッド・ムーアは、2006年にビング・アンド・ルースとしての活動をスタート。初期作品はエレクトロニクスとアンビエント・ドローンが交差するサウンド・プロダクションで注目を集め、〈4AD〉からリリースした前作『No Home of the Mind』は米Rolling Stoneなど各メディアから絶賛された。
Edit_Ko Ueoka.