Them magazine

SHARE
FASHION
Jun 24, 2020
By THEM MAGAZINE

Interview with Sinéad O’dwyer.“ウィメンズウエアと体の関係性”

2020S/Sにデビューした、ロンドンを拠点に活動するデザイナー・Sinéad O’dwyerにインタビュー。

シルクのランジェリー、そしてシリコンで象られたさまざまな体型のピース。それらは、これまでに《イッセイミヤケ》や《フセイン チャラヤン》、《トムフォード》が発表してきたグラスファイバードレスやブレストプレートとはコンセプトがまったく違う。Sinéad O’dwyerはその先鋭的なデザインによって、体とファッションの関係性についてアプローチし、下着や衣服が体のラインを作り上げることへのアンチテーゼと、自身が抱える体への複雑な感情を表現しているのだ。2018年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートのMAファッションプログラムを卒業し、19年9月にデビューコレクションを発表。すでに多くのアーティストからラブコールを受けるSinéad O’dwyerに彼女自身の、そして作品についての話を聞いた。

 


Steph Wilson

 

――まず初めに、あなたの育った背景について教えてください。あなたはどのような家庭で育ちましたか?

私は両親と姉と一緒にアイルランド・タラモアの田舎で育ちました。私の両親は両方ともアーティストで、私の母親はチェリスト、父は銀細工師です。私の妹もミュージシャンなんですよ! アーティスト一家ですね。

 

――育った環境が今のあなたのクリエイションに影響を与えていますか?

もちろんです。私は幼いころからハンドクラフトによる作品に囲まれていました。なぜなら、祖母はアイルランドの伝統的な編み物であるアランニットを編んでいたニッターでしたし、父は銀細工のワークショップをひらいていましたから。子供のときに縫って何かを作る、ということを学んでからはいつも猫のために枕のようなもの作ったりツリーハウスを制作したりしていました。

 

――ファッションに興味を持ったきっかけは何だったのですか?

私は11歳のとき、ファッションデザイナーのフィリップ・トレイシーと彼女のミューズであったイザベラ・ブロウの展示を見たのですが、その瞬間ファッションに恋してしまいました! また、アレキサンダー・マックイーンが作り出すクラフト、ドラマ、ストーリーが大好きなのです。ファッションが実現する衣服と体の繋がり、そしてその感情の表現が私を惹きつけたのだと思います。

 

――在籍していた「ロイヤル・カレッジ・オブ・アート」では何を学びましたか?

私は自分自身がどんな人間であるのかを考えさせられました。それまでの私はファッション業界に対しての執着が薄く、それによってどんな影響があったのかなど。そして、今後ファッションの業界にどう参加していくのかについて多くを学びましたね。私が長年にわたって自分の体と築き上げてきた身体醜形障害という複雑な関係を理解するために、ファッションについての仕事を始める必要があることに気づきました。シリコンやグラスファイバーを使って型作りを始めたのも在学中のことです。

 


Ottilie Landmark

 

――ブランドを始めたきっかけは何ですか?

ブランドをスタートしたのは2019年から。約1年前からですね。私は自分自身のボスとなり、自分のアイデアと倫理に基づいてビジネスを構築していきたかった。大企業で働いていると、マーチャンダイジングと利益に振り回されてしまいます。私にはそれに対応していく準備がなかったということも一つの理由です。また、ラグジュアリーブランドでさえ、意味のないものをたくさん作っていると感じます。サンプルセールに行ってその事実を確認する必要があると思いますよ。それに、すべてのブランドが同じ作品のわずかに異なるバージョンを作っています。私はそういったすべてのプレッシャーを感じずに自分のペースで、自由に探っていきたい。何よりもまず、自分のことをアーティストだと思っています。だから、自分のブランドをスタートさせたのです。

 

――現在、ブランドはどのような活動をしていますか?

私はコミッションに取り組み、毎年コレクションを制作しています。また、フォトグラファーのNick Knight、振付家のGrace NicholやミュージシャンのKelsey-Luなど、多くのアーティストとコラボレーションしています。

 

――ロンドンファッションウィークにて披露され、デビューコレクションだった2020年 春夏シーズンの反応はいかがでしたか?

とても好評でした。このコレクションは、“Wear me like Water”という水の楽園を背景にした夢のようなプレゼンテーション形式で発表しました。また、写真家でディレクターのSteph Wilsonとともにコラボレーションをし、スイミングプールの中で撮影したフィルム、ZINEやプリントを制作しました。このとき制作したフィルムは「SHOWstudio」の“Best Brand Film Award”を受賞しました。

 


Steph Wilson

 

――シリコンの中に衣服を埋め込むというアプローチはとても挑戦的に感じました。

そうですね、辿り着くまでの開発と改良はすごく困難で、挑戦的なプロセスでした。ガラス繊維の型を作り、それをうまくコントロールする方法を学ぶ必要がありましたから。なぜサテンやシルクのテキスタイルをシリコンで包んでいるのかというと、体にとって親密でしなやかな下着にインスパイアされているからです。下着のような衣服を体のラインを象ったシリコンボディに埋め込んで、衣服の形状を再形成しているのです。下着は女性の体を構築し、ボディラインを矯正するために使用されていますが、私はそれを反転させて下着の形を変えるために体を使っています。こうしたアプローチがとても好きなのです。

 

――なぜ女性の体とファッションの関係性に注目するのでしょうか?

私自身が身体醜形障害によって消耗し、悩みながら育ってきた経験があるからです。そして、その経験はこれからも私の人生において継続的に続いていくでしょう。だから、私は女性の体とファッションの関係に焦点を当てています。自分自身の経験に加えて、親しい友人や家族の経験をもとに、多くの女性が彼女たちの体に対して感じている、時に弱々しく時に破壊的な関係のストーリーを描きたいのです。

 

――ウィメンズウエアの美しさはどこにあると思いますか?

着る人々の体を強調し、体に適切な衣服を着ることで実際に着用していてどのように感じているかを見た目で説明できるという点。また、着ている人に力を与えられることができるということだと思います。そのためにも、人々が着ていて心地よいと思えるウィメンズウエアを作ることが大切だと思っています。お話してきた通り、私はとても個人的な視点でウエアと作品を作っているので、今はメンズウエアを作ることは想像できないですね。

 

――Arcaなど、多くのアーティストがあなたのウエアに注目しているようですね。

最初にThe Savage Ranch(南カリフォルニア・テメキュラにあるクィアコミューンであり、アーティストが集っている場所)のLove BaileyとともにドラァグクイーンのAquariaのために作品を作りました。その後、Arcaから私に連絡があり、彼女のためにカスタムしたボディコスチュームを制作したのです。動く体の上で私の作品が生き生きと動くのを見ることは素晴らしいことです。だから、私はアーティストたちとコラボレーションするのがとても好き。それに、『W magazine』でTim Walkerが撮影したBjörkが、私の作品を着ている姿を見たときはびっくりしましたね。

 


Ottilie Landmark

 

 

――あなたは普段、自分でデザインしたウエアを着ますか?

はい、普段から自分が制作した洋服を着ています。でもシリコンの作品はあまり着ませんね。あれはリアルクローズといえるものではないから。

――影響を受けたファッションデザイナーはいますか?

間違いなく愛しているデザイナーはアレキサンダー・マックイーン。10代のときに彼の生々しい感情を反映させたようなランウェイを見たときから魅了されています。また、ミウッチャ・プラダのテキスタイルや素材の使い方もとても好きです。

――ブランドの今後の展望を教えてください。

他のアーティストやパフォーマーとコラボレーションして新しい作品を作り続け、さまざまな方法で展示していきたいです。それによって、ビジネスとしてもブランドを成長させ続けたいと思います。

Sinéad O’dwyer

アイルランド・タラモア出身。幼い頃からハンドクラフトに興味を持ち、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートに入学。卒業後に自身のブランドを立ち上げ、2020年 春夏コレクションをロンドンファッションウィークで発表しデビューした。これまでに、さまざまなアーティストとコラボレーションを行う。

 

Edit_Marin Kanda.

SHARE