PHOTOGRAPHY BY RUDI GEYSER

FEATURE | 18, Dec, 2017

【デザイナーインタビュー】Lukhanyo Mdingi 南アフリカが生んだ新たなる才能 (アーカイブ)

(2017/02/24発売のThem magazine No. 013 「GO SOUTH」に掲載されたアーティクルです。)

 彼が手がけるコレクションのルック画像を一目見て、彼がタダ者ではないとわかった。肌を青色に塗り上げた黒人モデルが、ブルートーンの服を身にまとい、アフリカの広大な砂地に立っている。この素晴らしきヴィジュアルを作り上げたのが、南アフリカ共和国はイースト・ロンドン出身の若きデザイナー、ルクハンヨ・ンディンギだ。現在24歳。昨年大学を卒業し、今はケープタウンのアメリカンダイナーで働きながらコレクションを発表しているという。アパルトヘイトの遺恨が今なお色濃く残るこの国において、この若きデザイナーは何を思っているのだろうか。自身の生い立ちやクリエイション、そして南アフリカのクリエイティブシーンについて訊ねてみた。

 

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“PURGATION”  Photographer: Kent Andreasen / “TACTILE”  Photographer: Travys Owen

 

——最初に、あなたがファッションに興味を持ったきっかけを教えて頂けますか?

 実は、僕がファッションに心酔するきっかけは『The Bold and The Beautiful』(※アメリカの昼ドラ)だったんだ。僕は南アフリカ東海岸に位置するイースト・ロンドンという小さな町で育ったんだけど、幼い頃は午後になると母と一緒にそのメロドラマを見て過ごしていた。初めて観たときは衝撃だったよ。僕は登場人物たちの服装や強烈な個性にすぐに夢中になり、このドラマを通して服やファッション業界へ興味を持つようになっていったんだ。

 

——それで大学でもファッションコースを選んだのですね。

 そうだね。2011年にケープタウンに移り住んで、ケープペニンシュラ工科大学のファッションデザイン科に入学し、本格的にデザイナーとしての道を歩み始めたんだ。そこでさまざまなフィールドの才能のある人々と過ごすことができた。同じように熱意のある人たちと一緒にいれたことはかけがえのない貴重な経験だったよ。

 

——大学生活を通して一番印象に残った出来事は何でしょうか?

 在学中に「ELLE Rising Star」という国際的なコンペディションに応募し、ファイナリストに選出されたことかな。ファイナリストの一員として、この時期にデザインとビジネスの両立の重要性を学ぶことができたのは本当によかったと思っている。僕のデザイナー仲間であるNicholas Couttsはこのコンペで最優秀賞を獲ったんだ。

 

——あなたが最初のコレクションを発表したのもその頃ですか?

 そうだよ。僕は学位論文を「Avant-Garde Menswear a challenge to South African Fashion」と名付け、アヴァンギャルドな表現とイノベーションによって、ファッションがどのようにアートとして考えられうるかについて書いたんだ。その理論を反映したのが「Iridescence(虹色、玉虫色)」という最初のコレクションさ。このコレクションは方々から賞賛され、展示会の後にはSAMW(South Africa Mensweek)のコーディネーターであるSimon Deinerが、アフリカでの初めてのメンズ・ファションウィークに招待してくれた。

 

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“TAINTLESS”  Photographer: Travys Owen

——コレクションや服作りはどのように始まりますか?

 僕はとても時間をかけてアイデアを育てるタイプなんだ。僕たちのシグネチャーとなるスタイルやビスポークカット、パターン、シルエットを生み出すにはたくさんの時間と愛を浪費する。思いついた新しいコンセプトを心に秘め、ヴィンテージの服をひたすらチェックする。そこから、テクスチャーやテキスタイル、色のことを考えていく。クラシックなスタイルをきちんと踏まえた上で、それをいかに向上させるかが大事なんだ。

 

——昨年はデザイナー仲間であるNicholas Couttsと共に第84回ピッティ・ウオモに参加していましたが、どのように感じましたか?

 信じられないほどの経験だったね。ピッティだけでなくロンドンの合同展示会にも参加したんだ。そこはアフリカのデザインとは何であるかを世界に発信出来る絶好のプラットフォームだった。アフリカは豊かな多様性を持っていて、そこで生まれたファッションが本物であるだけでなく、十分な知識に裏打ちされた方法で表現されているということを伝えることができたと思う。

 

——あなたのInstagramでは、鮮やかな色の抽象的な画像を見ることができます。 あなたのコレクションにおける色彩の重要性について教えて頂けませんでしょうか?

 ブランドのアカウントは2つあって、ひとつはブランドのイメージに焦点を当てたもので、もうひとつはPRのためのものだ。前者には、インスピレーションとなる色彩トーンとその元となった画像を投稿している。毎回コレクションを作る際に、そのコンセプトに関連する画像を収集しているよ。僕は、色彩はどの芸術形態であっても重要だと信じている。僕のコレクションにとって色のトーンは互いにシームレスである必要があるんだ。だから服作りの際には、相補的なカラーパレットを用意しているよ。

 

——コレクションのシーズン名を明記しないのはなぜでしょうか?

 コレクションを作るという行為は、かなりの洞察力を必要とするんだ。なぜならその過程において、デザイナーである僕自身だけでなく、どれほど早く世の中が成長しているかを見極めないといけないからね。ファストフード、ファストミュージック、ファストファッション……クリエイティブなアイデアを育むべき本来の過程は、それらの加速している生産競争によって分断されつつある。これは僕のブランドにも直面している問題だと思った。ブランドのエッセンスとはコレクションの中でこそ感じられ、生きているものであり、僕らは偽ることなくそのプロセスをじっくりと楽しみたいと思っている。だからこそ僕はコレクションをシーズンごとで区切り、単なる一過性のものにするということはできないんだ。

 

——あなたは他媒体のインタビューでアメリカンダイナーに勤めながら服作りをしていると答えていましたが、今も同じルーティンでしょうか?

 よく知ってるね(笑)。実際にまだ働いているよ。僕が服を作るために普段どのような生活をしているかは誰も想像出来ないと思う。だけど僕は今の生活にまったく後悔していない。ウェイターとして生活費を稼ぐ自分と、デザイナーとしてクリエイションを追求する自分。僕の人生においてはそのジャグリングこそが大切であり、それによって今日の僕が形成されているんだ。

 

——あなたにとってのファッション・アイコンは誰でしょうか?

 それを答えるのはとても難しい。僕自身が成長するにつれ、過去のアイコンでも現在のアイコンでもその捉え方が変わってくる。僕は常に学び、常に心を豊かにしているからね。強いて言えば、僕のファッション・アイコンは衣服の美しさそのものにとらわれず、真に語られるべきことや愛情、情熱、そして意思の力に価値を見出している人々だ。

 

——あなたは普段どのような格好をしていますか?

 僕のブランドと同様に、タイムレスでクラシックな服を着ていることが多いかな。常に動き回っているから、シンプルで気軽に着られるということが必要条件だ。よくフィットしたデニムと白いTシャツを着ていることが多いかもしれない。

 

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”MACRAME”  Photographer: Travys Owen / ”IRIDESCENCE”  Photographer: Travys Owen

——南アフリカのことについて訊かせてください。現在、南アフリカの文化はどのような様相を呈していますか?

 南アフリカにいて最高だと思うのは、多種多様な文化と個性ある人々が共存していることだね。さまざまな文化や人種がミックスされ、互いに教え学び合っているという信じられない環境なんだ。だけどこの国で生きていく中で、アパルトヘイトという負の歴史が今日の子どもや大人へ与える影響を直接見てきたよ。この国では豊裕な自然や文化遺産があるとともに、人種差別が起こしたネガティブな歴史からまだ逃れられてはいないんだ。僕が住んでいるケープタウンは、それを実感出来る街の一つだ。多くの人種が共存している美しい街もあれば、残念なことに主に一つの人種のみによって占拠されている街もある。それが南アフリカの現実なんだ。

 

——南アフリカには、かつてのロンドンのパンクやニューヨークのヒップホップのようなムーブメントはありますか?

もちろんあるよ。僕が一番面白いと思うは、クワイトやパンツラと同時期に発生した“amaTrompies”の時代だ。“amaTrompies”は、地元や同族を大切にし、Ekasi(酋長、指導者)を敬うというカルチャーなんだ。それは見た目や生活様式、内在するエネルギーも含め、すべて南アフリカの歴史を体現したリアルなものだ。“amaTrompies”が持つ独特のスタイルは、 私たちの遺産の一部を表している文化そのものだと思う。

 

——あなた自身、南アフリカの歴史や生活から何かインスピレーションを受けていますか?

 南アフリカの歴史と生活こそが、何よりも僕の刺激となっているんだよ。幸運なのは、さまざまなタイプの人たちが集う場所に僕自身が身を置けているということ。僕とはまったく価値観の違う彼らの声に耳を傾ける時間は、僕にとって掛け替えのないものだ。そこで得られる豊富な情報はとてもエネルギッシュなものであり、これこそが南アフリカを金色に光輝かせる理由なんだよ。

 

——南アフリカの人々にとってのファッション・アイコンは誰でしょうか?

 昔はわからないけど、今現在だと僕はLaduma Ngxokoloだと思う。彼は《MaXhosa by Laduma》のデザイナーであり、南アフリカの伝統的な素材やパターンを使ったニットウエアを作っているんだ。間違いなく今一番注目すべき人物だね。

 

——あなたが最近感銘を受けた南アフリカの映画や本、写真集がありましたら教えてください。

 ついこの間、南アフリカのアーティストIan Groseの作品集を手に入れたばかりだ。信じられない量の南アフリカ関連の本を取り扱っている「Stevenson Gallery」で購入したよ。イアンのよう存在は、僕がデザイン分野で一貫性を保つための手助けをしてくれる。他人のクリエイティビティに対する姿勢や成長を目にするのはとても刺激的だからね。南アフリカのクリエイティブシーンはみんな繋がっているから、お互いにインスパイアしあっているんだ。

 

——南アフリカのオススメのファッション誌やカルチャー雑誌を教えてください。

 『THE LAKE』だね。こんな雑誌はこれまで南アフリカにはなかったと思う。さまざまな分野で活躍している若くてダイナミックなクリエイティブな人々を説得力のあるインタビューや記事で紹介しているんだ。あとファッションに特化して言えば、『ELLE South Africa』と『GQ South Africa』かな。

 

——南アフリカで注目している写真家は誰ですか?

 南アフリカは非常に才能のある写真家たちを擁している。僕は彼らとともに働けることを当たり前だとは思っていなく、とても恵まれたことだと思っているよ。数ある写真家の中でも、僕のルックブックを手がけてくれているTravys OwenやKent Andreasen、今回ポートレイトを撮影してくれたRudi Geyserは驚くべき才能の持ち主であり、各々が独自のスタイルを持っている。誰にもできないやり方でテーマを捉え、自身のクリエイションを最大限に発揮した強いイメージを創り出しているんだ。良かったら彼らのウェブサイトをチェックしてみてほしい。

 

——南アフリカのファッション好きはどのようなブランドを着用していますか?

 南アフリカではとても多くのスタイルやカルチャーが融合されているから、特にこれといった特定のブランドを挙げるのは難しい。南アフリカのファッションは、多様な異文化間での交流によって生まれているんだ。それを見るたびに僕はとても美しいなと思う。ケープタウンやヨハネスブルグの通りを少し歩くだけで、さまざまなバリエーションの南アフリカのファッションを感じることができると思うよ。

 

——最後にあなたにとってファッションとは何か教えて頂けませんか?

 それは何がファッションであるかを解釈する方法によって異なるよ。僕にとって、ファッションは服そのものをはるかに超えたものなんだ。それは散歩中の振動、 あなたの存在、あなたの唇の曲がり具合……本質的には、その人自身を表現するすべてだね。

 

Lukhanyo Mdingi

ルクハンヨ・ンディンギ 1992年、南アフリカ共和国イースト・ロンドン生まれ。2011年にケープペニンシュラ工科大学ファッションデザイン科へ入学。在学中の2013年に「ELLE Rising Star」のファイナリストに選出される。2016年にはピッティ・ウオモとロンドンコレクションにおける合同展示会に参加。南アフリカ独自の伝統や文化を落とし込んだコレクションを発表している。今後最も活躍が期待される若きデザイナーの一人。

lukhanyomdingi.co.za

 

Edit_Sohei Oshiro, Ko Ueoka