FEATURE | 28, Mar, 2019

【インタビュー】Sofia Prantera and Jeremy Deller “WILTSHIRE BEFORE CHRIST”

原宿にあるギャラリー「The Mass」にて、イギリスのファッションブランド《アリーズ》によるプロジェクト展「WILTSHIRE BEFORE CHRIST(以下WB4C)」が開催されている。

 イギリス南部にある世界遺産ストーンヘンジに、幽幻と浮かび上がる《アリーズ》を纏った女性。神々しく、畏怖の念をも起こされる壮大なビジュアルは、ファッションフォトの次元をゆうに超えて、神秘主義や信仰を探求するかのようだ。このプロジェクト「WB4C」は、《アリーズ》のクリエイティブ・ディレクターを務めるソフィア・プランテラ、ターナー賞受賞アーティストであるジェレミー・デラー、そしてフォトグラファー デヴィッド・シムズによるもの。ストーンヘンジといえば、未だに制作意図が解明されていないミステリアスな遺跡だ。このプロジェクトは、なぜストーンヘンジを舞台とする必要があったのか? 豪華すぎる3者のコラボレーションの背景とは? 「The MASS」での展示に合わせ来日したソフィアとジェレミーに、プロジェクトに込められたメッセージについて尋ねた。

 

_DSF5556「The Mass」での展示の様子

 

——今回のプロジェクト「WB4C」はどのように始まりましたか?

ソフィア・プランテラ(以下S) : ジェレミーと私は、大学時代からの古い友人で。特に私とジェレミーの奥さんはとても仲が良く、ある晩にみんなで一緒にディナーを食べていたんです。話題が当時ジェレミーが携わっていたあるコラボレーションプロジェクトの話になったとき、私はとっさに「《アリーズ》でも何か一緒にやらない?」と提案しました。ジェレミーはすぐさま快諾してくれ、一緒にTシャツをデザインしようと決めたのが始まりです。

 

——まず、Tシャツのデザインからだったのですね。

S: というより、当初はTシャツのデザインだけの話だったので、まさかここまでプロジェクトが大きくなるとは思ってもいませんでした。最初のデザインの大枠のアイデアはジェレミーが持ち込んでくれたものです。アーティストとして彼が携わっていた「イングリッシュヘリテージ」による大きなプロジェクトに関係するものでした。

ジェレミー・デラー(以下J):「イングリッシュヘリテージ」とは、古代のモニュメントを護るイギリスの組織です。私はストーンヘンジについてリサーチし、作品の制作を行うという形で関わり、2012年のロンドンオリンピックに合わせてストーンヘンジを模したエア遊具を発表しました。今年2019年は、ストーンヘンジが公有化されてからちょうど100年目にあたる年。これはイギリス人にとっても大きなイベントなので、イギリスのモニュメントを撮ってTシャツにプリントするというアイデアを出しました。

S: 私はイタリア人なので、“イギリスのモニュメント”が自分に関係し、ふさわしいものだと思っていませんでしたが、興味深いプロセスであったことは確かですね。おかげで現存する多くのプロットやモニュメントが、イギリスにおいて何を表しているのかを学ぶことができたので。そしてこうしたプロセスこそが、私たちのプロジェクトの始まりだったのです。初めはTシャツやスウェットシャツだけでしたが、「コップを作ってみよう」とか「次はステッカーとフォンカバーも作ろう」など、どんどん増えていって。私たち2人ともプロダクトをつくることが好きなので、展開を考えるのは容易でした。しかし、高価で付加価値がついたものではなく、あくまで気軽に購入して使用できるアイテムを採用しています。

 

——ではなぜ、このようなアートプロジェクトに発展したのでしょうか?

S: 18S/Sシーズンに「Click-To-Buy」というプロジェクトでデイビッド(・シムズ)とコラボレーションしたときも同様ですが、自分が尊敬する人とコラボレーションすることを強く意識しています。なぜならその仕上がりは予想を必ず裏切り、抱いていた期待を超えてくるからです。これはコラボレーションにおける一番の醍醐味ですね。ジェレミーとのコラボレーションも、私たちを想像のつかなかった場所に連れてきてくれています。

J: そう、結果としてとても大きなプロジェクトになりました。8着のTシャツでは収まりきらず、ストーンヘンジで撮影し、こうして巡回展として日本にも来ていますからね。まるでプロジェクトが生きて成長しているかのようです。

S: 多くのコラボレーションでは、アーティストの作品をTシャツにプリントするだけ。でもこのプロジェクトは、参加した人々がそれぞれ独自の意味合いでプロジェクトを転がしていくうちに、ここまで大きなものになりました。

 

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——Tシャツのためにストーンヘンジで写真を撮ろうというアイデアは、どのように生まれたのでしょうか?

J: ストーンヘンジの力強い環境に踏み入ったモデルが、石と相互作用するようにしたかったのです。写真を撮るデイビッドにはプロジェクトの途中から関わってもらいましたが、彼は常に私たちの考えを尊重して、協力的にコラボレーションに臨んでくれました。

S: スタイリングをしてくれたのはジェーン・ハウ。撮影の一週間ほど前に、私たちはジェインのスタジオに座ってTシャツを感じるがままにいじくり回し、いろいろなスタイリングを検討しました。ストーンヘンジでファッションを撮るというのは、とても大きな挑戦です。どう撮っても写真映えのする場所なので、美しく空間を切り取った写真はすでにごまんとある。そのような場所にただTシャツを着ているモデルが佇むだけでは陳腐すぎますし、異質で刺激的なビジュアルにしたかった。結果予想もしなかった出来栄えとなり、強いテーマを設けて仕事をするのは興味深いと思いました。

 

——ストーンヘンジでの撮影は、大きな成果になりましたか?

J: もちろん。ストーンヘンジは神聖な場所で、ファッションシューティングで足を踏み入れられることは本当に特別ですから。50年ほど前に一度撮影があった以降は撮影が許されていないのですが、今回は許可してくれました。

 

——なぜ撮影許可が下りたのですか?

J: 2012年のプロジェクトで、私がストーンヘンジの管理者たちと働いていたからです。コネを使ったわけですね(笑)。私は彼らを手助けしていたので、彼らも私に協力せざるをえないと(笑)。今では世界遺産という場所は、中年や年老いた人々のみが好んで訪れ有り難がるものになってしまい、若い人は興味を示しません。ストーンヘンジ側も、これを問題視していたようで。世界遺産に絡めて、若い人の気を引ける“何か”をつくることができれば、歴史の価値を理解する若いオーディエンスを獲得できると考えたのです。そこで白羽の矢が立ったのが私。そうして、2012年に飛び跳ねて遊ぶことができるストーンヘンジ型のエア遊具を製作しました。

S: 今回のコラボTシャツは、ストーンヘンジにあるギフトショップでも販売されます。彼らもすでにたくさんのTシャツを取り扱っていますから、ジェレミーにはよりアップデートしたものを求めてきましたね(笑)。訪れた人が楽しめるように、「イングリッシュT」や「ストーンヘンジスマイリー」のTシャツが並べられます。

 

——ストーンヘンジでの撮影は、どのようなものでしたか?

S: 今年の6月、 早朝の撮影で、朝4時ごろから始めました。あの周りはとても暗く、静かでした。撮影日は2日に分けられ、ずっと皆一緒に過ごし、家族旅行のような感覚がありました。撮影前日はそこまで寒くなく、ポピーの花が咲く場所で太陽も出ていたので、一番楽しめましたね。起用したモデルは、イタリア出身の古くからの私の友人。今では《サンローラン》や《グッチ》のショーに出るような有名なモデルになりました。デイビッドが『Another Magazine』のカバーを彼女と撮影したのがきっかけかな。彼女はアンドロジナスな、性別を超えたルックスを持っています。

 

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——このコラボレーションで製作されたアイテムの多くには、オリジナルの古代シンボルがプリント/刺繍されています。なぜ古代シンボルに惹かれるのですか?

J: 古代シンボルは、ロゴの原型だからです。シンプルで、再生産がしやすく、力強い。だから人はロゴをつくりたくなるのだと思います。単一のグラフィックイメージは、ミステリーや魔法、想像に満ちています。

S: 今回はジェレミーが古い本から探してきた古代シンボルを独自に発展させ、デザインしました。シンボルはブランドに似たところがあって、現代ではシンボル自体がブランドだと捉えられています。

J: 3000年前には、服の上に「自分がどこに所属し何者なのか」を示すシンボルをつけていました。みんながまったく同じ服を着て、シンボルだけが異なり、自分の属性を主張するわけです。今ではファッションブランドが同じことをやっていて、本質的には変わっていません。

S: シンボルは「私はこれを信じています」と簡単に伝えられる手段なのです。《アリーズ》のシンボルは、自由でアナーキーな思考を象徴しています。この主張を構築することこそ、現代のブランディングが持つ力だと思います。こうした考えのもと、私はファッション的な観点から、ジェレミーはアート的な観点から、シンボルに魅了されているわけです。今回のプロジェクトでも「Built by  Immigrant」という短い言葉を使っていて、展覧会に合わせて刊行したアートブックの表紙にもなっています。とても深い意味を持っている言葉ですが、わかりやすく、さまざまな解釈が可能です。

 

——では「Built by Immigrant」には特定の意味はないのですか?

S: 自由に解釈していただきたいのですが……。移民問題は、イギリスではセンシティブな話題です。ロンドンに住む半分は移民という事実があり、私自身も移民です。ジェレミーはロンドンで生まれた私のごく少ない友人ですが。この移民という問題は痛ましく、だからこそ力強いメッセージを発するのだと思います。2000年以上前に、イギリスという国は外部からやってきた移民によって形づくられました。言ってしまえば、みな移民なのです。

 

——最後の質問です。ジェレミー、そして《アリーズ》の次のステップはなんですか?

J: しばらくファッションをやることはないですね。今はフィルムを2本製作しています。一つはオーケストラを撮っていて、もう一方はブレクジットと極右、ポピュリズムに関するものです。

S: 《アリーズ》は、別のアートのコラボレーションと、もっと商業的なコラボレーションを行うことになりそうです。Joshua Gordonのようなダブリンの若いアーティストともコラボする予定です。ファッションブランドを通じて、若い人たちとコミュニケーションをとり、メッセージを交換し新しいアイデアを得ることができる。私は《アリーズ》はその手段だと思っていますし、コラボレーションをする理由はここにあります。ファッションを通じて興味深い行いを広く伝えることができ、経済的にも助けになります。今回のコラボレーションのように、Tシャツが大きなプロジェクトに繋がるのは面白い。今後も《アリーズ》に欠かせない要素として、コラボレーションを行っていきたいと思います。

 

WILTSHIRE BEFORE CHRIST
会期: 〜3月30日(土)
会場: The Mass
住所: 東京都渋谷区神宮前5-11-1
時間: 12:00~19:00

 

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