FEATURE | 05, May, 2020

The LATEST MUSIC -今週聴きたい新譜 05/05-

連載「Them magazineがオススメする今週聴きたい新譜」。今週の一枚はこちら。

The Soft Pink Truth『Shall We Go On Sinning So That Grace May Increase?』

Shall We Go on Sinning So That Grace May Increase

 

The Soft Pink Truthは、アメリカの電子音楽デュオMatmosの片割れとしても活動するDrew Danielによるソロ・プロジェクトです。この人、かなり奇抜な音楽をつくる人で……。

Matmosが2019年に発表した『Plastic Anniversary』というアルバムは、スーパーのレジ袋から整形に使用されるシリコンジェルバッグの音まで、さまざまなプラスチック製品から発せられた音をサンプリングしてつくったという、変態としかいいようのない作品(プラスチック由来の環境問題を提起する、真面目な側面があるようですが)。

さらに、16年に発表された『Ultimate Care II』では、洗濯機から発せられる、ガタガタ、ジャブジャブといった音のサンプリングが全編にわたって使用されています。こういったとんでもないアイデアを、卓越したセンスとユーモアをもってハイクオリティな音源としてアウトプットしてきており、その実験ぶりからは熱狂的なコアなファンが多いという。

ソロであるThe Soft Pink Truthでも、ブラックメタルバンドをエレクトリックな手法でカバーした『WHY DO THE HEATHEN RAGE?』を発表するなど、Matmosに負けず劣らずな奇天烈ぶりを発揮してきました。

 

しかし、今回発表された『Shall We Go On Sinning So That Grace May Increase?』は、これまでの彼の作品とはまったく異なっており……。Drew Danielの大きな特徴でもあった強いコンセプトやサンプリングがあるわけではなく、とりわけキャッチーな旋律もないのです。ただひたすらに美しく、控えめで上品な、ゴージャスなアルバムなのです。往年のファンにとって、この変貌ぶりは、Drewがどんなエキセントリックなアイデアを試すよりも驚きなのではないでしょうか。

アルバムを通して曲と曲がつながっているので、シャッフル再生は禁物。収録される全9曲の曲名は「Shall」「We」「Go」と、アルバムタイトルが単語で分割され、そのまま割り振られているのも、再生順の不可逆性を示しているのかもしれません。

ディープハウスな落ち着いたBMPで進行し、コーラスの旋律やピアノ、ホルンの音色が、浮遊しているようなドリーミーさを演出。時折現れる変調や強めのアタックが、心地よいアクセントを生んでいます。

どことなく聖なる息吹や祝福を感じる今作は、耳がほぐされ気持ちが解放されるような、至福のアルバムに仕上がっています。落ち着いたテンションなので、リモートワーク中のバックグラウンドミュージックとしてもおすすめ。ヒーリング効果もありそうで、寝る前にキャンドルを灯して聴くのもよさそうです。

 

 

プラスチックの音でつくられた、Matmos『Plastic Anniversary』はこちら。

 

洗濯機をサンプリングしたMatmos『Ultimate Care II』はこちら。

 

Edit_Ko Ueoka