FEATURE | 22, May, 2018

【インタビュー】Jacques Bourboulon ×《CAN PEP REY》

 まったく縁とは不思議なものだ。イビザの魔法に導かれ、《CAN PEP REY(キャンペプレイ)》と写真家 Jacques Bourboulonによる新たなコラボレーションが誕生した。

 《キャンペプレイ》は、Paul ConradiとMaud Vanden Beussecheのデザイナーカップルによって2013年に創立されたドイツのブランド。この一風変わったブランド名は、彼らが出会い恋に落ち、いつも再会する場所だったというスペイン・イビザ島にある古民家の名前からとったという。ブランドはイビザの自然や開放感をデザインに取り込み、快適な素材にこだわったユニセックスウエアを展開している。

 ブランドにとって重要な存在である古民家「キャンペプレイ」は、なんと200年以上も前に建てられたのだそう。その長い歴史の中で、偶然にも伝説のフォトグラファーが「キャンペプレイ」に住んでいたことがあった。彼の名はJacques Bourboulon。1946年に生まれ、60年代後半には《ディオール》や《カルヴェン》といった名だたるメゾンと仕事をし、その後はファッション界から離れて「女性のヌード」をテーマにした作品づくりに没頭したフランスの写真家だ。その運命的な巡り合わせを知った《キャンペプレイ》がJacques にオファーし、今回のコラボレーションが実現された。

 東京・神宮前のショップ「Graphpaper」では、このコラボレーションを記念したポップアップイベントが開催中。《キャンペプレイ》とJacquesのコラボコレクションとともに、Jacquesによるイビザ島時代の作品も多数展示されている。そのオープニングに合わせ、Jacques本人と、《キャンペプレイ》からPaulが来日。インタビューの前半ではJacquesの写真家人生について、後半ではコラボレーションについて伺った。

Dia - 05 - 006Photo by Jacques Bourboulon

 

——Jacquesさんに質問です。写真家として活動される前は何をされていたのでしょうか?

Jacques Bourboulon(以下、Jacques)「写真を始める前は、音楽で生計を立てようと考えていた。だから、パリの教会でパイプオルガンを弾く毎日だったよ。同時に、英語を学ばないと未来がないとも思っていたので、19歳のときにNYに旅立った。NYでもパイプオルガンを弾いて稼いでいたが、自分の実力ではこの先々も音楽で食べていけるとは思えなかったんだ。そんな中、ある日ふいに写真を撮り始めようと思って、ブロードウェイで中古のアサヒペンタックスを買った。そのまま私は写真の虜になったよ」

 

——その後、ファッション写真家としてのキャリアをスタートさせたのですか?

Jacques「そう。1年後にパリに戻った私は、すっかりファッションやモデルに魅了されて、ファッションフォトを撮り始めたんだ。そして《ディオール》や《カルヴェン》といったメゾンと働き、写真家として成功を収めることができた。しかしファッションの流れはどんどん早くなり、ついに5年後にはファッションフォトに飽きてしまったんだ。ファッションは優雅で美しいものだが、私の目にはすべてが同じように見えてきてしまい、ファッションを撮ることをすっかりやめてしまった」

 

——ファッション写真家としての活動をやめた直後は何をしていましたか?

Jacques 「自分の使用しているカメラのメーカーである、東京のペンタックス本社を訪れて副会長に作品を見てもらったんだ。彼は私の写真を褒めてくれ、新しいカメラとレンズを複数くれた。その後、私はブリュッセルを拠点とするヨーロッパのペンタックス社との仕事をスタートさせ、一緒に写真展を行うこともあった。ファッションを撮っていたときの私は、まるでゲージの中に飼われている鳥のようだった。私は自由に空を羽ばたく鳥になりたかった。ペンタックス社は、そのゲージの扉を開けて、私に自由をくれたのだ。写真家としての活動を支援してくれた上で、ペンタックス社の人はこんな言葉も投げかけてくれた。『確かに素晴らしいカメラは必要だが、写真を撮るのはカメラではなく、君自身だ。素晴らしい光とそれを捉える目があれば、どんなカメラでもいい写真が撮れる』。偉大なるアンリ・カルティエ=ブレッソンやジャック・アンリ・ラティーグは、みんなが捨ててしまうようなコンパクトカメラを使って美しい写真を撮ったときもあったんだ。写真を撮る上で一番重要なのは『光』だ。ギリシャ語で、“photo”は“光”、“grapher”は“作家”、つまり“Photographer”は“光の作家”という意味なんだよ」

 

Dia - 05 - 003 Dia - 05 - 019Photo by Jacques Bourboulon

 

——1976年よりイビザ島に住んで作品を撮っていられましたが、イビザの光は作品にとって重要だったのでしょうか?

Jacques 「そう、イビザはとても素晴らしくゴージャスな光で満ちていた。特徴的なのは、島のすべての家が真っ白で、その壁が光を反射すること。だから自宅の周りだけでもほんとうに美しい光があって作品を撮ることができる。天候に優れていることも大事なポイントだ。私の作品のテーマである『ヌード』を撮る最中に、女の子を凍えさせてしまうわけにはいけないからね」

 

——そもそも、イビザ島に居を移したきっかけは何だったのでしょうか?

Jacques 「ナイトクラブで、ある有名な歌手に出会ったのがきっかけだった。その人が、『イビザに部屋を持っているから、引っ越してきなよ』と誘ってくれた。2週間後にフライトをとって遊びに行くと、私は一瞬でイビザに恋をした。イビザの持つ美や自然、シンプリシティはとても魅力的に感じられ、当時は『LOVE, LIFE, PEACE』なヒッピーの時代で、とてもいい時間が流れていた。自由で開放的なムードの中で、やりたいことはなんでもできる、夢のような空間だったんだよ」

 

——当時のイビザではどのようなライフスタイルを送っていましたか?

Jacques 「クレイジーな暮らしさ!レストランやナイトクラブをはしごしていたよ。自分で言うのはちょっと恥ずかしいが、当時の私はすでにちょっとした有名人だったから、クラブに踊りに行くにも常に招待されていてお金を払う必要がなくてね。物価も安かったので、食事をするにもシューティングに出かけるにも費用があまりかからなかった。完璧な環境だったね」

 

DSC_0128 DSC_0125「Graphpaper」でのポップアップイベントの様子。

 

——しかし、89年には天国のように思えたイビザから離れていらっしゃいますね。それはなぜだったのでしょうか。

Jacques 「私が引っ越してきたばかりのイビザは、家の扉を開け放したまま旅行に出かけても、帰ってきたときには何一つ荒らされていないような安全な島だった。あるのも、マリファナやアルコールだけ。しかし、島にコカインがやってきたことで、そのような幸せな環境は破壊されてしまったんだ。私はその変化が嫌で仕方がなかったのさ」

 

——そうなのですね。イビザの後は郊外に腰を据えて作品を撮り始めていますが、なぜ郊外なのでしょう?

Jacques 「私は自然が大好きだからね。木や森、花に囲まれて暮らし、静けさや自然の美を愛でていたいんだよ。都市には人やノイズが多すぎて、もう住むことはできないな。自然というのは、私の作品において重要な要素だ。ファッションフォトをやめてからは事務所に所属しているようなプロモデルを撮ったことは一度も無い。プロモデルは訓練された『プロモデルとしての表情や態度』を持っていて、私にはそれがまったく自然だとは思えないんだ。私は町中にいる素人の女性を被写体にしている。私のモデルは背が高くある必要もない。背が低くても女性は美しいからね」

 

——素人のモデルとなる女性を選ぶとき、どのようなポイントに注目して判断しますか?

Jacques 「まずは手を見る。手を見れば体のプロポーションがわかる。これには訓練が必要だけど(笑) そのあとに顔を見て、脚を見るね」

 

——性格や雰囲気、表情などは?

Jacques 「これは答えるのが難しいな。私は女性の外見の美しさに惹かれているから、内面はそこまで考えない。しかし表情については考慮する。私はいつも喋りながら撮影することでモデルを緊張させないようにし、自然な表情や態度を引き出そうとしているよ」

 

——今現在は、どのような作品を撮っていますか?

Jacques 「ヌード作品を作ることからはもうリタイアして、今は自分のために写真を撮り続けている。家の近くにある馬の飼育場で撮ったり、自宅の庭にいる虫や動物を撮るマクロフォトグラフィーに挑戦していたりね。これまでの私の作品のイメージとはまったく違うかもしれないね」

 

DSC_0105 DSC_0116

Jacques の写真をプリントしたコラボレーションTシャツ3種。

 

——さて、今回のコラボレーションについてお聞かせください。なぜコラボレーションすることになったのでしょうか?

Jacques 「これはPaulが答えた方がいい質問だね」

Paul Conradi(以下、Paul)「すべては『キャンペプレイ』という古民家にまつわるストーリーだ。200年以上にわたって存続する『キャンペプレイ』にJacquesが昔住んでいたんだ。僕は今もよく『キャンペプレイ』に行くけれど、そこには昔も今も変わらない自由な空気感がある。今でも家の壁にはJacquesの写真がかかっていて、僕らが家の名前を冠したブランドを始めたときから、Jacquesと一緒に何かしたいとずっと考えていたんだ。ただJacquesの写真を使うだけじゃなくて、もっとスペシャルなコラボレーションにしたかったんだ。それが今回実現して嬉しいよ」

 

——今回のコラボレーションに使用された写真のセレクトは、どのように行われたのでしょうか?

Paul 「Jacquesからたくさんの写真を受け取って、僕らでその中から決めたんだ。Jacquesの作品はどれも素晴らしいから選ぶのは難しかったけれど、ただ美しい女性の写真ではなく、イビザ特有の自由で美しい空気や光がよく表現されていることを基準にして選んだよ」

 

——Jacquesさんは、Paulさんがセレクトした写真にどのような感想を持ちましたか?

Jacques 「とても共感したよ! すべての写真家に言えることかと思うけれど、写真家は自分の写真に思い入れがありすぎて客観視することができないことがある。そのような時には、他人のフレッシュな感覚が必要になるんだ。今回彼らにセレクトを委ねたのも、彼らの目が、新しい何かを見出してくれると思ったからね。このコラボレーションを見ればわかるけれど、私の読みは当たったようだ!」

 

 「Graphpaper」でのポップアップイベントは5月27日まで開催中。会場には、Jacques自らが持ち込んだという、彼の過去のエキシビションのポストカードや写真集も展示されている。『キャンペプレイ』のコレクションとJacquesの写真とともに、開放感溢れるイビザの空気を体感したい。

 


CAN PEP REY “POP-UP STORE” @ Graphpaper

TERM  ~ 5月27日(日)
PLACE  Graphpaper
ADDRESS  東京都渋谷区神宮前5-36-6
OPENING HOURS   12:00- 20:00 (月休)
TEL  03-6418-9402
URL  graphpaper-tokyo.com/exhibition/index.html

 

Edit_ Ko Ueoka