FEATURE | 07, May, 2018

【インタビュー】Karim Hadjab as《APRÉS》

 

自然の中に服を1年放置する、または培養したバクテリアに服を食べさせてしまう。そんな驚きの手法で新たなファッションをつくり出す男がいる。その名もKarim Hadjab。フランスで生まれた彼は、効率や工業化といったファッションのメインストリームから完全に逆行した服作りを行ってきた。

 

 新ブランド《APRÉS》のローンチイベントのために、デザイナーKarim Hadjabがフランスから来日した。Karimはこれまで自身のブランド《KARIM HADJAB》において、時間経過や自然環境といった要素を服作りに盛り込んだコレクションを発表してきた独創的なデザイナーだ。いや、デザイナーというより“アーティスト”であり、彼の服は製品というより“作品”と呼ぶにふさわしいだろう。イベントの会場となった「LAILA TOKIO」では、Karimの制作風景を模した特別なインスタレーションを展示。その準備段階に訪れると、デザイナー自らが活発に動き回り、服の配置や見え方を熱心に突き詰めている様子が印象的に眼に映る。彼の作風とプロダクトはファッション業界でも稀有な存在だが、その素性はこれまであまり明かされてこなかった。今回実現したインタビューを通じて、Karim Hadjabの人間像と、彼が手がける新ブランド《APRÉS》について紐解いていきたい。

 

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「LAILA TOKIO」でのインスタレーションは、店舗内のみならず外庭部分にも及んだ。

 ブランド《KARIM HADJAB》を始める前は、パリで「Tokyoite」というショップを2001年から3年ほど経営していたというKarim。日本ブームが巻き起こっていたフランスで、スニーカーを中心とした現地で手に入らない日本のアイテムを輸入販売していた。当時先鋭的だった独自の輸入スタイルを持った店には、「コレット」の人々もインスピレーションを得るためによく足を運んでいたという。もともと新品の製品を扱っていた彼は、今ではヴィンテージウエアをさらに自身で加工する、真逆とも言える方向性にたどり着いているわけだが、そのきっかけはなんだったのだろうか。

 「『Tokyoite』はフランス人には人気があったが、日本人はあまり来てくれなかったので、だんだんと嫌気がさしてきたんだ。店では《ナイキ》や《コンバース》といったスニーカーを多く扱っていたが、そういったブランドに依存した状態から離れたいと思ったことも理由の一つだ。ちょうどその頃から、私はフランスのヴィンテージ服に触れ合い、その魅力を知り始めた。また、私はライフワークの一部として写真を撮るのだが、道ゆく人々のスナップを撮り続けることを通じて、改めて『ファッションとは何か』ということを考えさせられたんだ。その後、店を閉じてフランス中を旅し、各地で貴重なヴィンテージの服に出合った。本格的に服づくりについて学び始めたのは2006年からだ」

 今までKarimは、様々な方法での服の制作に取り組んできた。たとえば「4saison」(四季)と名付けられたラインでは、ヴィンテージの服を一年間自然の中に放置することで変色させる。「Bacter」というラインでは、主にコットンと化繊の服の上にバクテリアを培養させ、生地のコットン部分のみを食べさせてしまう。「Argile」では、北アフリカの伝統的手法である泥染めでヴィンテージ服を染めなおす。このような特殊な方法での服作りに至った背景とはいったい?
 「あるとき私がヴィンテージを使ったクリエイションをしていることを知っている友人が、アフリカに出荷される洋服が入ったボックスを見つけたので、冗談半分で知らせてくれた。すぐに見に行ってみると、それはアフリカに出荷される“はず”だったボックスで、そこに3年以上も放置されていたものだった。10年経った今でもなぜそのようなことをしたのかわからないが、私はボックスを開けて、なかの洋服を一つひとつ吟味し始めたんだ。そのとき、これらは自分のクリエイションのもとになるかもしれないと直感した。とても不思議な感覚だったよ。新しいプロジェクトを始めるというよりは、なにか実験に挑戦するようだった。私はすぐさま服を持ち帰り、改めて観察し研究をスタートさせたよ。それが始まりさ」

 

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実際の「4saison」の制作風景。

 そのクリエイションが、ただ机上で考えついたアイデアではないのは一目瞭然。その独自性溢れる手法に至るまでには、それぞれにストーリーがあり、いずれにも服に真摯に向き合うKarimの存在が感じられる。では具体的に、そのユニークなアプローチに到るまでにはどのようなストーリーが隠されているのか。《KARIM HADJAB》のメインクリエイションの一つである、北アフリカの泥染めのライン「Argile」について語ってくれた。
 「はじめに、北フランスに住む職人に服を黒く染めてほしいと相談しに行ったところ、『黒をつくり出すのはとてもケミカルな薬剤を使うから僕らはやらない』と断られた。どうしても黒を欲していたので困っていたが、偶然私の展示に来てくれた泥染めの職人が、アフリカに解決策があると教えてくれたんだ。それからすぐにアフリカに飛んだよ。そしてその黒を生み出す手法とは、北アフリカの土を使った伝統的な泥染めだったんだ。この手法ならナチュラルな黒を生み出せるだけでなく、絶妙な擦れなども表現できる。実際に現地で泥染めを見学させてもらった後、30kg程度の泥をフランスに持ち帰って生まれたのが『Argile』というラインなんだ。アフリカには泥を使って身体や服を清潔にする習慣があり、『Argile』はそのアイデアとも通じている。汚い衣服を、染めると同時に綺麗にしてくれるんだ」

 

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「Argile」制作風景。

 さて、彼が新しく立ち上げたブランド《APRÉS》は、退廃したヴィンテージウエアをスキャンし、新品のウエアに転写したシリーズだ。ウエアはプリントに合わせて一点一点サイズや仕様が異なり、各所に手縫いも施され、美しい転写プリントとともにKarimらしい仕上がりを見せる。
 「《APRÉS》は、ゴミの山から見つけ出してきた服を新しいプロダクトにできないかと思って、何度も試行錯誤を重ねてつくりあげたものだ。発見した服は少しでも雑に扱ったらすぐに崩壊してしまうほどだったから、再構築できるよう写真を撮った上で分解するという丁寧な作業が必要だった。もともとコンテナを見つけた時には服はびしょびしょの状態だったので、その色を再現しようと、乾燥させきった服を改めて濡らしてみることも試みたんだ。とにかくいろいろな実験の末に、《APRÉS》は完成に至ったんだよ。プリントは今まで使ってこなかった現代的な技術だが、インダストリアルなものではなく、馴染みのある小さなアトリエと連携して時間をかけて行っている」

「APRÉS」のプロダクト。「LAILA TOKIO」にて購入可能。

「APRÉS」のインスピレーション源となったボロボロのヴィンテージウエア。

 これまでずっと、Karimはファッション業界におけるインダストリアルな性質から逃れようとしてきた。その考え自体は、「Tokyoite」を運営していた時代よりもっと以前の、彼が生まれ育った環境にも紐付いている。Karimが育った地域にはアフリカからの移民が多く住み、劣悪な労働条件の工場で働いていた。そんな環境に身を置いていた幼きKarimは、生地工場や縫製工場など工業的なシステムに疑問を持って育った。それが「服を新たに生産する立場ではなく、道にある服を拾って、あるいは見つけてきて、それと向き合う」という彼のスタイルに根付いているのだ。ベースとなっているヴィンテージの既製服は、いわゆるメゾンのような高級なブランド品ではなく、もっと安価なものだという。捨てられてしまう美しくない服でも、泥で洗い草木染めを施すことで、美しいものへ変貌させることができる。価値のないものに新しく価値を吹き込むそのクリエイションは、リサイクルという観点でゴミの多い消費社会へのアンチテーゼにもなっている。
 「多くの既製服は、機械で生地を生産し、流れ作業で縫製され、終始インダストリアルな環境で完成し箱に詰められて売り場に送られてしまう。そのような作り手の心の通っていない服作りはとても嫌なんだ。着て美しいだけの服には興味がない。私の服はいつも着る人に寄り添い、風に揺られて、鳥の声を聞いて、たまには雨にさらされて。そのようなあり方がとても大事なんだ」

 

LAILA TOKIO
ADDRESS  東京都渋谷区渋谷1-5-11
OPENING HOURS  12:00 – 20:00
TEL  03-6427-6325
URL  laila-tokio.com
instagram  @lailatokio

 

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